伊予市で肥料・農薬を使わない自然栽培で農家を楽しむ片岡さん。農業にかける胸の内を語っていただきました

伊予市の人々

片岡英富(かたおか ひでとみ) 【えひめブルーベリーファーム唐川】

経歴

伊予市にあるえひめブルーベリーファーム唐川のオーナー。ブルーベリー、レモン、パパイヤ等々すべてを無農薬で作っている。夏にはブルーベリー狩り農園を営んでいる。

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※2022年5月に取材、執筆した際の情報です。


片岡さんのお仕事について

片岡さんが行っている農業は、具体的にどんな栽培を行っていますか?

今はブルーベリーをメインで栽培しています。うちは、農薬を使わない栽培をはじめたのが10年ほど前です。そして3年ほど前から無農薬、無肥料栽培である自然栽培をはじめました。

片岡さんが農業をはじめる前は何かされていましたか?

もともとは、愛知県で11年間サラリーマンをしていました。それから平成3年ごろ愛媛に帰ってきて車のボディーコーティングの仕事をしていたんです。しかし、ポリマー加工が段々根付いたころにディーラーが自社で作業を行うようになりました。その影響で、僕らの仕事が段々減ってきてしまって。そこで、父親がやっていた農業を、兼業というかたちでやりはじめました。

片岡さんが農薬を使わない栽培をはじめたきっかけはありますか?

最初は、ミカンやビワを栽培していましたが、少し力不足を感じてもっと種類を増やそうと思いました。当時、「バックカルチャーシステム」というポットで栽培する溶液栽培が主流でした。この栽培方法で18年前からブルーベリーを栽培しはじめたんです。

でも一時期、半分くらいは枯れてしまい、このままでは農家を続けられないと思いました。ただ、このままやめてしまうと借金が残るため、意地でもやろうと決意しましたね。そこで、同じ時期に農業をはじめた友人たちに相談して、いろいろ試行錯誤を行いました。その結果、溶液に頼らない栽培をやっていきたいと。化学肥料を使わない「無農薬栽培」をはじめていき、いずれは観光農園をやりたいと思いました。しかし、最初はポットで自然栽培をするのは無謀でしたね。

そうだったんですね。自然栽培を取り入れはじめたお話を詳しく聞きたいです。

自然栽培は土のなかに微生物を呼び込んで、微生物の力で作物を育てるのが基本です。ですが、ポットのなかにあるのは土ではなく、「オアシス」というブロックを崩したものなんです。その上に少しずつ土や木の皮を入れて、少量の土で栽培をしていました。自然栽培に切り替えを行った途端、木がどんどん小さくなったんです。微生物を呼び込む土が少なかったことから、木が自分で栄養を作っていかなければならなかったのが原因ですね。

なので、自然栽培への切り替えには非常に時間がかかりました。最初の2年間は、ブルーベリーの収穫量が半分にまで減ってしまいました。その時期は本当に苦しかったですね。3年経った現在、木の大きさがやっと戻ってきたなと思います。

自然栽培への切り替えは今もされているんですか?

今もまだ切り替え作業をしています。また徐々に、ポット栽培から土での栽培に切り替えていこうと計画しています。一気に替えてしまうと1年間は絶対に実がならないので、1/5や1/3ずつ切り替えていこうかなと思っています。

他に、うちではブルーベリーだけでなく、半々くらいの比率で無農薬レモンの栽培をしています。無農薬のレモンは需要が高いです。なので、レモンの木も増やそうとしているんですよ。

―片岡さんの農地はブルーベリーの栽培に適した気候ですか?

愛媛県は全体的にいえばブルーベリーの気候に適していますが、ここは山なので日照時間がすごく関係しています。日照時間が短いと実が熟れていく時期が遅くなるため、完熟するまでに1ヶ月丸々かかります。

しかし、北条のような日当たりのいい土地では、2週間ほどで実が熟れるんですよ。同時期に出荷した場合、うちの実は完全に熟れていないので、値段が下がってしまいます。なので逆に、うちみたいな土地は出荷用ではなく、観光農園をやるほうが向いていると思います。

片岡さん

これからの農業について

片岡さんがこれまでの自然栽培を通して何かやりたいことはありますか?

自然栽培は、除草剤も使わないので草刈りなどの手間はかかりますが、栄養を供給されなくても作物が作れる部分は強みになります。そういった「自然栽培の強み」を周りに広めていきたいです。

また、ブルーベリーの自然栽培をはじめて、作物にこだわった商品を使うお客様やお店が増えていると気づきました。伊予市にある「三日月とカフェ」さんや「うみとカモメ」さんも、うちの商品を実際に食べに来て、美味しいと思ったから使ってくれています。

需要はあるのですが、うちの生産量がまだまだ少なく供給できていないので、もっと増やしていきたいなと思います。増やしても売れる自信はあります。ゆくゆくは息子が継ぎたいと思えるような農場にしていきたいなと思います。

最後に、1年を通してテンションが上がるのはどんなときですか?

それはもちろん収穫です。実が100%実る保証はないですが、収穫を楽しみに日々の積み重ねを行っています。あとは、自分が主体となって好きなものを作れるというこれほど楽しく感じられるものはないですね。1年に1回しか成果は得られず、これで正しいのだろうかと考えるときはあります。しかし、やめるつもりはありません。体の動く限りはやり続けたいと思います。

僕は今60歳ですけど、80歳のおじいさんがレモンの木を40本植えはじめたんです。そのおじいさんが、「わしゃ、実がなるまで見届けれんかもしれんけど植えるんじゃ。」と言ったんです。それを聞いたときには、負けてはいけないなと思いましたね、笑。まだ先のことを考えたり、先がだめだと言ってたりしてはだめですね。もう60歳だと考えるのではなく、まだまだ60歳だと思うようになりました。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

片岡さん

インタビューを終えて:
人柄が滲んだとても優しそうな笑顔で話す片岡さん。挫折を経験しても折れずに挑戦する勇気や自然栽培を追求して突き進む片岡さんの強い心に元気をもらいました。伊予市の太陽を浴びて愛情たっぷりの作物を季節になったら是非堪能したいです。ブルーベリーの栽培範囲が大きくなる予定なのでとても楽しみです。

ライター:人間環境大学 松山看護学部 看護学科 3回生 N.T

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