伊予市の宿「つたや旅館」を再生させたオーナーが語る、地域文化継承への想い

つたや旅館 黒田氏の画像

黒田 廣(くろだ ひろし)【つたや旅館】

つたや旅館の3代目オーナー。会社員時代は東京や大阪などに勤務し、定年退職後の2017年に故郷である伊予市へUターン。高齢となり引退する前オーナーの家族から依頼を受け、つたや旅館の経営を引きついだ。2019年7月にリニューアルオープン。

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つたや旅館の建築について

-今回はじめてつたや旅館を訪れました。和洋折衷の素敵な内装ですね。外からは想像できませんでした。

つたや旅館は築70年ほどの古民家です。「大正モダン」の様式を取り入れており、建てられた昭和初期にしてみれば最先端でハイカラな建築様式ですよね。洋風の造りと純和風の作りの部屋が混在し、職人技の手仕事が詰まっています。もともと茶室として使われていた部屋や、緻密な細工が施された書院窓、デザイン性の高い欄間など、見所がたくさんありますよ。

それに、つたや旅館は奥行きが50メートルある、長細い「町家」風の造りの古民家です。建物内に洋室や和室、中庭があり、お泊りの方に建物のいろいろな表情を楽しんでいただけます。管理する立場からすると、客室から玄関までの移動距離が長くて大変ですけどね、笑。

書院造の和室と中庭

つたや旅館の宿泊について

-黒田さんがつたや旅館を引き継いだ後、経営方針は以前と変わりましたか?

基本的にはビジネス客メインの部分は変わっていないです。ただ、趣ある和室の他に、割安なドミトリー部屋を増やしましたね。痛んでいた部分を全面改修するのを機に、二段ベッドを入れた部屋を作りました。本当は外国人宿泊客を増やせたらと考えていたんですよね。新型コロナウイルスのせいで海外からのお客様は減っており、想定通りにはいかなかったですが。しかし、日本の若者にも泊まってもらいやすくなりましたね。現在はビジネスホテルとゲストハウスの中間のような形態です。素泊まり1泊4,000円~と、リーズナブルに泊まれますよ。

あとは地域交流の場として、つたや旅館を地元の方に活用してもらいたいです。1階の広間や2階の書院の間は時間貸ししていますので、ワークショップや勉強会のほか多様な用途で利用していただけます。つたや旅館からもイベントを企画していきたいですね。いろいろ考えていますが、今は秘密です、笑。

-つたや旅館のこれからが楽しみになりました!

つたや旅館を引き継いだきっかけと想い

-昨年、黒田さんがつたや旅館のオーナーを引き継ぐことになった経緯を詳しく教えてください。

「つたや旅館を次世代へ継承したい」想いがいちばんにありました。私は少し前に定年退職し、セカンドライフをどのように生きようか考えていたんです。私たちの世代の多くは、老後のために退職金を貯金したり資産運用に回したり、という人が多いのです。しかし、私の考えは違いました。「お金は使ってなんぼ!」と思っているんです。

これからの計画についていろいろ考えあぐねていた、まさにそのときです。前オーナーのご家族から「つたや旅館の経営を引き継いでくれる人を探している。」との話が舞い込みました。この話が来たとき、直感的に「あ!これだ!」と。

私が後継者として旅館業をやりながら、つたや旅館の素晴らしい建築を維持、管理、再生したいと思ったんです。

-「あ、これだ!」と思われた理由をもう少し詳しく聞きたいです。

私が幼かったころ、郡中地区は栄えていました。つたや旅館以外にも、お金と手間のかかった古き良き建物がたくさんありましたよ。ところが今は、後継者不足で取り壊しを余儀なくされている古民家がほとんどです。実は商店を営んでいた私の実家も、15年ほど前にやむを得ず取り壊しました。

次の世代に値打ちあるものを残し、文化や歴史を繋いでいく必要があるのではないかと以前から思っていました。私が次世代に繋ぐ中継者になれればと。私にとって、これからの人生の道楽ですね。

-黒田さんにとっては地域貢献が「道楽」なのですね。

「地域貢献」とまでいうとカッコつけすぎな気がします。「地域を豊かにするお手伝い」くらいですかね。つたや旅館を継続し、50年後、100年後の人たちにも文化的価値を感じてもらいたい。100年継続となると当然ながら私だけでは間に合わないので、次の後継者を育てたいですね。

「つたや旅館を経営したい。」と家族に話したとき、姉から「あなたは何を道楽しよん?」と言われたんです。もともとは皮肉のニュアンスが含まれていました、笑。私はそこで「そうか!私がやろうとしていることは道楽なんだ。これからは大手を振って『道楽』しよう!」と心に決めました。地域の文化を支える役割には値打ちがありますし、最高の道楽ですよね。

自己満足だけにとどまらず、地域の満足や活性化につなげていきたいです。

インタビューを終えて:

黒田さんの解説とともに拝見したつたや旅館には、いたるところに職人技が詰まっていました。建物の細部へのこだわりを見つけるのが宝探しをしているようで、建築の知識が少なくても充分楽しめました。お話を伺う中で、黒田さんがご自身を優れた文化を次世代に残すための「中継者」と表現されたのが印象に残りました。過去、現在、未来を繋げる。そして地域の人を繋げる。利他の精神で、楽しみながらつたや旅館や地域の進化に関わっていらっしゃるのだと感じました。